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インターンによる柴さんゆるっとインタビュー①

インターンによる柴さんへのインタビュー企画、第一弾はグンナレ更が担当します。

インタビューするにあたって、私が気になったのは、稽古場によく登場するこんな風景。ホワイトボードの前にゆったり集まりつつ、柴さんは よくキャストのみなさんに今どんなことを考えているのかをお話しています。いつもとても和やかで、私も楽しく聞かせていただいているのですが、今日はそんな普段とても優しい柴さんが、実は演劇で世界征服を目指しているという不穏な噂を耳にした(長年ままごとの活動を見てきている落 雅季子さん情報)ので、今回はそんなことも含めて聞いてみました。

 

グンナレ:今日も稽古お疲れ様でした。私も初日から稽古に参加させていただいていて、あっという間に稽古ももう後半戦になってきたなと感じているのですが、柴さんは最近、どうですか?

柴さん:大変ですけど、もう出来上がってきてるなぁという感じがしています。ぼんやりと全体から作っていますが、なんかもう終わっちゃいそうだなって。だんだんどんな作品かわかってきてしまっているので、それは嬉しいし、楽しいんですけど、若干正体がわかってきてしまっているのはさみしい感じもちょっとありますね。

グンナレ:昨日の稽古で、アメリカの映像制作会社・ピクサーがなかなかヒット作を生み出せなかった時に、監督や脚本家以外のスタッフ、例えば作画担当の人とかも自由に物語そのものについてアドバイスをしてもいいというシステムにしたら、『ファインディング・ニモ』や『カールじいさんの空飛ぶ家』などのヒット作が生み出されたって話をしていましたよね。私は柴さんの稽古場もそういうオープンな雰囲気があると感じています。

柴さん:前々から個別に誰かに相談することはやってたんですけど、去年、多摩美で『大工』という作品を作らせてもらった時に、学生主体の公演で、20人以上も出演する演劇を作ったことがなかったですし、もともとある曲に合わせて演劇を作るという初挑戦だったので、できるかどうかわからない要素がすごくたくさんあって。途中で結構困った時に、僕だけが悩むんじゃなくて、ちょっと悩んでることをオープンにしてった方が良さそうだなと思って、あるタイミングで一斉に問題点を公開して共有するようになりました。アイディアが欲しいわけじゃないんですけれど、僕が何に迷っているのかとか、どういう問題を抱えているのかとかを共有してもらう場としていいなと思っています。今年の夏に高校生と作品を作った時(『わたしの星』)も、そういう場を設けたし、今回も、実際にこれはどこが問題なんだろうとかどういう話なんだろうっていうことをみんなで共有することをやるようになりました。例えば昨日のピクサーの話はそれをなぜやるのかということの例として、よく引用させてもらっていますね。生まれたての作品は絶対にブサイクで、それを頑張って成長させてくんだとか、かといってそのためにすごい新しい要素が必要なわけじゃなくて、今あるものの、ちょっとした組み換えかたで、お話が全く変わって見えるとか変えることができるんだってことを、説明したいんですよね。台本、作品についてアイディアを出そうとすると、今のが全部ダメみたいな考え方にだんだんなってきちゃうんですけど、そうじゃないってことが体感でわかってきたので、みんなで共有しつつ僕の話も聞いてもらいたいと思っています。

グンナレ:ホワイトボードを持ってきてみんなで話し合うという時間にはそうした意味があったんですね。ここから、話はちょっと変わるんですけど、さっき柴さんが演劇で世界征服を目指しているみたいな話を聞いたんですけれど・・・

柴さん:はい、昔、というか今もそう思っています。

グンナレ:そうなんですね! それはその野望についてもっと詳しくお聞きしたいです。

柴さん:えーーーー。世界征服って言葉はあれですけど、何を目的に演劇をするかです。演劇それ自体が楽しいし、すごく新しいというか面白いところがあるから僕は演劇を作っているんですけど、それと同様に、僕も人間ですので、欲望みたいなものはありますよね。支配欲というか名誉欲とかお金も欲しいですし、要は、自分の演劇が、例えばですけど、世界中の人たちに愛されれば、それは現象としてもハッピーだし、お金も儲かるし、名誉ももらえそうだし、得なことしか思い浮かばないじゃないですか。だから、簡単な話、若い時はすごく幼かったですから、全員が自分の演劇のファンというか熱心な観客になってくれればいいのにっていう考えはありましたよね。世界制覇ではないけど、少なくとも日本でとか。今はだんだん大人になってきたので、世界的にヒットしている人たちでも全員から愛されることは絶対にないってことがわかっていますけど、できるだけ大きいお客さん、大きい劇場、大きい劇場というか上演の機会、ということを、最初は目標にしていました。でも今はそれは色んな意味で、もたないなと思っています。まず、自分の実力として、自分の作品はそんなものすごく大量な人の鑑賞に耐えうるような作品ではないと僕は思うんです。今の自分が自分の判断をするに、僕はやっぱり日本人だとか、アジア圏だとかの人たちにフィットするような作品ばっかり作っているような気がします。世界中で売れるためには人種とか言語を超えないといけないんですよね。今の僕の作品を翻訳すれば実はそういうものを超えているのかもしれないけど、とりあえず、現状の僕の自己判断では、アジア圏なら通用するかもしれないけど、他の地域でこの演劇がそのまま翻訳されるだけで通用するような作品性を持っているとはそんなに信じていないです。普遍性も一緒で、千年後僕の作品が上演され続けるんだと、信じているかといったら……そういう希望は持っていますけど、絶対大丈夫だとは思わないですよ。実力的な問題もそうですし、それに耐えうるような作品を作ろうとか、そういうモチベーションを、乗り越える作品を作ろうって、思えるほど僕が、さっき言った欲望とか欲求があるかって言うと、それがだんだん変化してきたんですよね。本気で世界を狙ったり、本気で日本全国に見せるつもりだったら、それなりの戦いかたとか作戦の立て方があるんですけど、そこまでしてまで、そうなりたくない。なりたくないというか、なりたいわけではないんだということがわかってきてしまったというのがありますよね。

グンナレ:稽古場でいつも楽しそうに和やかに稽古されているから、つい見落としてしまいがちだけれど、柴さんには実はとても大きな野心があるんですね。柴さんはあえてドメスティックに活動されているイメージがありましたが、実は世界を見据えていて、世界で戦おうとしていたんですね。

柴さん:そうですね、そういう気持ちはありますよね。ただ、もう僕は、僕の作品だけで戦わなくてもいいと考え方を変えました。いちばん最初は、観客を増やしていって、全員が自分の観客になっていくことを前提とした世界征服だったんですけど、今はそうではなくて。僕自身がもし演劇で世界征服をする可能性がまだあるとしたら、ワークショップをしたり、色んなことをオープンにして作っていくとか、演劇ってこういう要素まで因数分解できて、ここの最低要素から考えていったら、作りやすいということを、伝えていったりすることかもしれない。演劇にとっては良くない現象かもしれないけど、発想を逆転して、全員がやる側になる、全員が演劇を作れるみたいな状況を生み出す、世界征服なようなやり方ってないのかな? って、考えていますね。全人類が僕の演劇をみてファンになるっていう妄想はそんなに今信じていないけれど、全世界の人に、僕が関わった演劇の作り方とか、僕が考えた演劇の方法が伝播して、そこから演劇が生み出されるという妄想の方がまだ信じられるので、いつかそういうことができたらいいなとは考えています。

グンナレ:そうなったらそれは確かに柴さんによる演劇を通じた世界征服かもしれないですね。先日台湾でワークショップを行っていたり、『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』も来年台湾で上演されたり、着々と世界征服に向けて準備が進められているように感じます。もしかしたら、『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』は柴さんの世界進出の第一歩となる戯曲かもしれないですよね。

柴さん:いやー、それはどーなのかなぁ……。でも、僕が海外で作品を上演するなら、翻訳じゃ限界があると思っていたので、ぜひ海外で、海外の人たちと作りたいと思っています。『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』の台湾上演は、ベースは日本で作れども、台湾の人たちとリクリエーションする方式なので、自分の作品が真の意味で翻訳されて、どういう評価になるのかとかどういう意味を持ったりどういう効果を持つかが自分でやっとわかるので、それはすごく楽しみですね。だから、僕の考えている考え方とか発想、方法が、普遍性を持っているとかそのまま通用できる部分っていうのがわかると、他の国でもきっとこういう風に作っていけるだろうと考えられると思うので、すごく楽しみではあります。

前ミーティングで言っているところを聞いたんですけど、グンナレさんは日本の演劇を海外に紹介する仕事がしたいんですか。

グンナレ:はい、そうです。それがしたいと思っています。

柴さん:逆じゃなくて? 海外の演劇を日本に紹介するではなくて? なんで日本のものを海外へ紹介したいというかそもそも紹介しないといけないんですか?

グンナレ:私去年イギリスの大学の演劇学部に留学してたんですけど、能とか歌舞伎とか古典芸能ならまだしも日本の現代演劇って全く存在感がなくて、それが悔しくて。コンテンポラリーな演劇は、まずそもそも上演もあまりされないですし、一年間受けた大学の授業でも日本どころかアジア圏の演劇は一言も触れられることはなかったんです。

柴さん:知らないんでしょうね。だって僕らも、僕は中国にはちょろっと行きましたから中国の現代演劇については語れますけど、じゃあシンガポールとか、マレーシアとかの現代演劇について語れって言われても、見てないから一切わからないとしか言いようがないですよね。

グンナレ:でも私がイギリスで一番悔しかったのは、日本で演劇をしたり学んだりするうえではイギリスの演劇は絶対に避けては通れない道なのに、イギリスで演劇をするうえでは、日本の演劇はいくらでも避けて通れる道だということでした。だからどんな演劇好きでもなかなか日本演劇に触手が伸びないし、そもそも出会わない。それをなんとかしたいと思っています。世界中で日本発の演劇がもてはやされるような状態にしたいわけではなくて、演劇好きならいつかどこかで必ず日本演劇に出会うような状態になったらいいなと思っています。

柴さん:いやぁ、でもなったらいいですよね。全然話が変わってしまうけど、ピコ太郎とか夢ですよね~。

グンナレ: ピコ太郎?!

柴さん:今まではお笑いも翻訳して、海外でウケるっていうのは無理だったわけじゃないですか。それを音楽と融合させて、ユーチューブというツールを使うことで、世界的な人気に繋がった。それは元は韓国で『江南スタイル』をヒットさせたPSYがいたからだとは思いますけど、そういう簡単な行き来がユーチューブならできるけれど、小説とか演劇とか、映画では起こっていない。そういう行き来が起こって、気軽にお互いが観あえるようになったらいいですよね。イギリスの人が日本のを観たり、日本の人はイギリスだけではなく他のアジアとか、ヨーロッパの国が発信の演劇を観たり。

グンナレ:そうですね。そうやって行き来ができるようになったらもっと色々な人種の人が舞台で活躍する場も増えると思いますし。日本の演劇がもう少し市民権を得ることによってアジア系の役者さんが増えるきっかけになって、最終的にはアジア系のハムレットとかもよく目にするようになったら嬉しいなとも思っています。私自身はイギリスの演劇サークルで、一回も役がもらえなくて。それが悔しいから、自分で自分のためにソロパフォーマンスをあて書きしたり、野田秀樹さんの『THE BEE』という英語戯曲を演出してみたりしたんですけど、それが結構好評だったので、出番がなかったら出番を自分で作ればいいし、日本発の演劇も嫌われているわけではないからちゃんと紹介すればうまくいく可能性はあると思ったので、これから頑張ってゆきたいです。

今日はどうもありがとうございました。

 

稽古後お疲れのはずなのに柴さんは、どんな質問にも答えてくださって、『ゆるっとインタビュー』のはずが、かなりアツいインタビューをお届けすることができて、グンナレ、とても嬉しいです。柴さん、お忙しいところ本当にありがとうございました。柴さんのパッションが詰まっているこの作品が、一人でも多くに届くといいなあと思いながら、残りの稽古も目撃したいと思います。次回のゆるっとインタビューもお楽しみに!

 

フェスティバル/トーキョー17主催プログラム

『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』

作・演出 柴 幸男

同じ時間、二つの場所で紡がれる物語。隣にいても遠い「距離」から見わたす未来

2017年10月7日[土]- 15日[日]

​東京芸術劇場 シアターイースト/シアターウエスト

詳細、チケットの購入はF/T公式ホームページ

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