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WKATキャスト座談会part2

2017年10月7日から、フェスティバル/トーキョーで上演される柴幸男の新作『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』出演俳優の座談会、第二弾! 今度はある日の稽古前、朝いちばんにお集まりいただいて収録しました。なお、お名前の表記は皆さんの普段の呼び名を尊重しており、後ろに続くカッコ内には皆さんの出身都道府県を記載しています。稽古も佳境に入り、今作の全体像を掴みつつあるキャストたちの対話、お楽しみください。

(取材・構成 落 雅季子)

▼メンバー

大石将弘(奈良)

鈴木正也(新潟)

森岡 光(長崎の対馬・熊本)

椿真由美(神奈川)

野上絹代(東京)

--おはようございます。前回もやったんですが、このメンバー同士で他己紹介しあっていただけますか? まず、大石さんから鈴木正也さんを。

大石 え、えーと……他己紹介って、何言うたらええんかな? 正也くんは……多摩美の柴ゼミ生さんです。前髪が重たくて、一重で、目が細い。すごく真面目やなーって。甘いもの好きやね。

正也 カルピスに今はまってます!

--そんな正也さんから森岡 光さんを。

左から椿真由美、鈴木正也、森岡光

正也 ピッピさん(森岡 光)は……最初に稽古を見た時の印象が強いですね。パンを食べるシーンがあるんですけど、その演技が可愛くて、こんなことされたら僕好きになっちゃうなって思うくらい。

--わーお。そんな可愛いピッピさんから、椿真由美さんをご紹介ください!

  椿さんは声がめっちゃ素敵で、心地よく響く方。大好きです。ウォーミングアップでやるストレッチでいつもストイックに身体を動かしてて、尊敬してます。椿さんって、ガラケーみたいに身体がべったりくっつくんですよ!

--ガラケー?! では椿さんから、野上絹代さんをぜひ。

椿  これまでいろんな人と出会ってきた中でも、絹ちゃんはかなり特殊というか……。

絹代 よく言われます(笑)。

椿  8月のワークショップで、絹ちゃんが授乳中だって聞いたからびっくりしちゃって。乳飲み子を抱えながら演劇してる人って見たことなかったから! すごいバイタリティだなって。いろんなアイディアで稽古場を引っ張ってくれる、年下だけどお姉さんみたいな頼もしい人です。

--では、絹代さんから大石将弘さんを。

絹代 いっしー(大石将弘)は見た目がサラッとしてるし、ままごとっていう爽やかな劇団の看板俳優じゃないですか。でも、本人は関西出身っていうのもあって、ちょっとこってりしているのかも。ノリ始めると稽古でも面白いこといっぱいしてくれるし、こってり系の西の人なのかなって。見た目がさっぱりだから味わい深くて、しみじみ噛み締めてます。

--キャストの皆さん、柴さんとの出会いはいつ頃でしたか?

椿  私は、2014年に青年座で、柴さんの『あゆみ』に出演して以来、ご一緒するのは今作が二度目になります。やっぱり刺激的で、楽しい現場ですね。

正也 僕が最初に柴さんの作品を観たのは、2015年の多摩1キロフェスの『あたらしい憲法のはなし』でした。水の使い方も斬新だったし、空間とか場所をつくるのが上手な人なんだなって。自分がキャストに決まった時は緊張しました! 大石さんも野上さんも、僕にとっては大学の先生ですから……。でもそういう方々と共演できることはすごく嬉しいから、ありがたく受けさせていただきました。

  あたしは2011年の『わが星』再演と2012年の『テトラポット』(北九州芸術劇場プロデュース)を九州で観ました。まさか自分が柴さんと作品つくれると思ってなかった。遠い人だと思ってたので、こんなにフレンドリーな方だとは知らなかった。

--絹代さんは『あゆみ』初演(2008年)に、振付で参加していらっしゃいました。大石さんはままごとに加入して今年で7年ですね。おふたりから見て、柴さんの創作方法の変化は感じます? 昔と比べて、変わってますか?

左から野上絹代、大石将弘

絹代 いやー……昔っから変わった人だったけど(笑)、私が所属する快快の作品づくりと、通づるところがあるなって思ってる。柴くんは、どうしたら既存の劇にない面白みが出るかという手法を考えるところから入る。それは10年前に知り合った頃からあんまり変わってない。彼は手法の面白さに加えて、緻密で細やかなドラマを書く力も持ってるからすごいですよ。毎回、やっぱり天才なんだなーと思いますね。

大石 柴さんは「何をつくるか」よりは「どうつくるか」っていうことを、ずっとやってる人だと思います。昔の方が、もっとひとりでつくってる感じが強かったですね。僕がままごとに入る前の作品、たとえば『反復かつ連続』(2007年)とかは、自分のアイディアがまずあって、それを実現するための演出だったと思うんですけど、小豆島や象の鼻テラスでの創作を経て、より民主的なつくり方に移行したっていうか……。以前にも俳優たちのアイディアでシーンつくることもあったけど、今はもっともっと任せて不確定な要素を盛り込んでる。自分がガチガチに関知しないような、そういう環境をつくるのが上手だなって思います。

--毎日、音楽に合わせた稽古がバリバリおこなわれていますね。音に合わせて演技をすることって、俳優から生まれる感情などに反する部分もあると思うんですが、それに対してどう向き合ってますか。

大石 たとえば戯曲が楽譜だとしたら、音楽に対してどれくらいの緩さを保って書いてあるかどうかやと思います。僕が柴作品で細かく音に合わせて演技をしたのは、『朝がある』(2012年)が初めてでした。あの作品は、拍ごとに台詞が決まっていたけれど、今だとフレーズ内では自由に演技できるから、僕は今のところそんなにやりにくくないかな。柴さんが新曲にあわせて戯曲を執筆していることもありますから。

絹代 自分たちが自由にやってだんだん演技が音楽的になってグルーヴが生まれるのと、「ここで合わせましょう」っていう目標がもとからあってそこまでグッと持っていくのは、音を聴けるようになってからその中で自由になっていく感じの違いだと思ってて、早く音を覚えて演技を自分のものにしたいけど、それまでの時間はちょっともどかしいところもあるな。

椿  私はこういう稽古スタイル初めてで、最初はすごい煽られる感じがしたの。音のテンポとか台詞の発する時の感覚って、音に感情がノッてしまっていいものか、相反してた方がいいのかわかんない。でも今はだいぶ稽古して熟成されてきて馴染んできたかなっていう感じ。手探りは続いてますけど。

  私もついていくのに必死だけど、決められたところまでに収めるっていうのは自分すぎる演技じゃなくしてくれるから、好きですね。ここまでに終わらなきゃいけないってことはこういうテンポで、こういう気持ちの早さで言っていくんやろうなとか、ここに余裕があるってことは、自分を急かしすぎてるなとか……自分だけの役作りじゃなくなっているのが心地いい。

絹代 ピッピちゃんとか(端田)新菜ちゃんが率先して音楽にノッて、巻いてくれたりするよね。

正也 僕もピッピさんのキッカケで出る感じなんで、僕は自由に出て、芝居してます。他にはすごく大変なところもあるんですけど……!

--今作の「距離」というのが大きなテーマになっています。災害やテロに遭わずに生き残るとはどういうことなんだろう、って稽古場でも身につまされるようなシーンが多い。正也さんは、新潟県中越地震(2004年)の記憶はありますか?

正也 鮮明にあります。その時の僕は、小学4年生だったかな。揺れた時は父とキャッチボールをしてて、突き上げるような揺れが来てからめちゃくちゃ揺れたので、その場で父と抱き合って震えました。本当に怖かった。自分で大きい地震を経験しているから、東日本も熊本の時も、すごく心配になっちゃいましたね……。

  去年の熊本地震の時、私はちょうど市民センターから退館しようとしてるところでした。ドンッて一回地面が押し上げられて「えっ?!」て一瞬思ったらガタガタってガラスが揺れた。お寺の墓石が倒れて道路が封鎖されたり、停電で信号が機能しなくなった。水道も止まりました。でもそれは前震で、私はたまたまTwitterで「東日本の時も前震の後に本震が来たから備えておいた方がいい」っていう情報を目にしたから、防災セットを用意して1日半眠らずにいたんですね。だから本震の時にはすぐに家から脱出して近くの山に避難できたんです。本震が来た時には本当に死ぬ気で……死にたくないと思って走った。周りの人も、すごかったですね。避難所で水も食料も供給が少なかったんで奪い合いみたいになって……遠慮がまったくできなくなってる人がたくさんいた。東日本大震災との距離はずっと感じてたけど、いざ自分たちが経験してみると、これよりも大変な恐怖を東北の人たちは感じたんだと思いました。

--絹代さんは今年の夏、いわき総合高校総合学科 芸術・表現系列(演劇) 第14期生の卒業公演で『1999』を演出しましたよね。元快快の篠田千明さんが過去に演出を担当されてたから、これまでにもいわきとのつながりはあったと思うんだけど、あらためて感じたことはありましたか。

絹代 篠田がいわき総合高校から仕事を受けて、快快のみんなと当時の高校生で作品を発表したのが、震災の直前の2011年2月だったんですね。私の娘は3月13日が誕生日で、震災当日はまだ0歳だった。東京に帰ってきて、家で娘を昼寝させていたら突然揺れて、娘に覆いかぶさりながら……祈るってこういうことかなって思いましたね。あの時は「頼む、この子はまだ0歳だ! この子だけは死なせるわけにいかない!」って必死に祈った数十分だった。

そこから当時いわきで関わった子たちにすぐに会うことはできなくて、快快メンバーから週に1回くらいかな、明るく元気づけるようなメールを送って応援してました。私は、自分の子どもを危険にさらしてまで応援しに行くことはできなかった。それが自分の弱さだったのかはわからないけど……。

それで、今年いわきに滞在して高校生と作品をつくったわけですが、高校3年生の子たちは、小学校時代に原発事故を受けての避難を経験してる。初めてその話を直に訊いて距離を埋めて……。ううん、埋まらないんだけど、縮めることはできたなと思って。距離って物理的に縮めることも必要ですよね。いくらインターネットで遠くの情報を検索できるようになっても、本当のことはわからなくて、実際に「あの時どうだった?」って聴けることの方が私には価値がある。何もできなくても、話をしあうことが大事なんじゃないかな。彼女たちが話をすることで、同じ経験をした誰かが救われたりする。高校生のうち何人かは「私はまだ終わってないと思います」って言ってて、原発の存在する恐怖がまだ続いてるっていう話を聴けたことは大事だなって思った。

正也 僕は、前回の座談会で(小山)薫子が話した、宮城県のいしのまき演劇祭での『赤鬼』に一緒に参加してたんです。母方の親戚が岩手にいたこともあったし、自分も中越地震を経験していたから気持ちの上では東北の近くにいるつもりでいたんですけど、山の上から、津波に飲まれて更地になってしまった街を見て、ああ全然わかっていなかったなって……痛感しました。そのあと多摩美に戻ってきて同じ作品を上演した時は「ここで終わらせたくない! もっと遠くまでこの言葉を届けたい!」っていう気持ちになりました。今作の稽古場でその気持ちを果たしているような感じです。

--大石さんは、阪神・淡路大震災(1995年)を経験された世代ですね。

大石 当時の僕は、小学校6年生でしたね。学校のガラスが割れたのを覚えてます。地元は、震度4か5だったかな……。神戸から避難して転校してくる子が何人かいました。でも、知った気にならないとか、わかった気にならないことを僕、すごく大事に思ってて……。僕は阪神の時も東日本の時も、揺れたけど距離的にギリギリ当事者じゃない気がしてるんですよね。

『テトラポット』で演じた役は、震災の被害を受けた地元に戻る設定だったけど、僕自身はそうではなかった。だから想像するしかできなくて、精一杯想像はするけど、その本人にはなれない。俳優の仕事も、「役との距離」とか「起こってる状況との距離」が常につきまとってるものだから、僕からは、想像することと考え続けることをやめないっていうことしか言われへんな、と思います。

椿  私、みんなの語る災害の記憶はあるけど、話を聴いてるとすごく距離を感じるなあ……。阪神・淡路大震災の時は20代後半だったけど、テレビで画面越しに見てただけ。2年後くらいに劇団の旅公演で神戸に行ったけど、だいぶ道路も綺麗になってて、震災の爪痕は残ってなかった。私、東北にもいまだに行ってないのね。だから本当に、ああ、画面越しにしか知らないんだなって感じさせられた。

--最後に、この作品の見どころをご紹介ください。

  シアターイーストは、お客さんと真剣に向き合う感じなんですけど、だからこそ映像とか舞台美術を使って遊びながらシーンが出来上がっていく、そのコラボレーションを楽しんでくれたらよかとかな。

正也 今回の美術は本当にいろんな使い方ができるし、アイディアが尽きない。がんばって面白いシーンを、大胆につくっていきたいです。

絹代 シアターウエストの方は、ちょっとソース味だよね(笑)。芳醇な面白みがあるんじゃないかな? 小道具も遊んでる感じです。

--シアターイーストか、シアターウエストか、どっちにするか迷ってる人にチケット選びのアドバイスを送るとしたら?

絹代 両方観て、今あいつ走ったから息切れしてるなとか、あんなに走ったくせに平然としてるな、とか裏でバタバタしてるキャストを想像していただくのがいちばん面白いかな(笑)。

  「あなたとわたしのセット券」、ありますよね。

正也 僕もどっちも観てもらいたいな。毎公演、手を動かして骨組みを組み直すことになると思う。馴らして精一杯組み立てていきたいです。

椿  上演時間80分(予定)の、コンパクトな作品じゃないですか。その中に音楽が詰まっててキャストの台詞があって美術が重なって、パカッとあけるといろいろ出てくるおもちゃ箱みたい。年齢層もいろんな人に楽しんでもらえると思うんですよね。

大石 個人的にはウエストをおすすめしたい気がする……。あっ、でも僕だったらイーストから観ますね。料理も、薄味から食べていった方がいいんで。薄い和食を食べて、次に濃いソース味も食べてみるっていうのがおすすめです!

--決め手は薄味とソース味?! ということで、本日はありがとうございました。

次回更新では、本作品の制作、河合千佳さん・荒川真由子さん(以上、フェスティバル/トーキョー)・宮永琢生さん(ままごと|ZuQnZ)の鼎談をお届けします。それぞれのキャリアや、本作の台湾コラボレーションが実現するまでのプロセス、若き制作者へのアドバイスなどが満載の予定です。

 

フェスティバル/トーキョー17主催プログラム

『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』

作・演出 柴 幸男

同じ時間、二つの場所で紡がれる物語。隣にいても遠い「距離」から見わたす未来

2017年10月7日[土]- 15日[日]

​東京芸術劇場 シアターイースト/シアターウエスト

詳細、チケットの購入はF/T公式ホームページ

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