WKATキャスト座談会part1
2017年10月7日から、フェスティバル/トーキョーで上演される柴幸男の新作『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』は、東京芸術劇場のふたつの劇場を行き来しておこなわれます。その内面により迫るため、キャストのうち5人の座談会を、ある日の稽古終了後に収録しました。
なお、お名前の表記は皆さんの普段の呼び名を尊重しており、後ろに続くカッコ内には皆さんの出身都道府県を記載しています。これがもしかして、作品を観る鍵になるかも……?!
(取材・構成 落 雅季子)
▼メンバー
端田新菜(京都の伏見)
串尾一輝(広島)
岡田智代(岡山・横浜)
藤谷理子(京都の貴船)
小山薫子(東京)
--まず、このメンバー同士でお互いを紹介していただけますか? それでは、端田新菜さんから串尾一輝さんを。
新菜 串尾一輝くんは(元女優の)堀北真希さんが大好きで……彼女が結婚された時はずいぶんつらい思いをされたらしいです。将棋が趣味で将棋会館に行って仲間を見つけて指すほどの腕前。お昼ご飯にはナポリタンばかり食べてる。あと、パーマをかけると自信が持てるらしい。
串尾 僕、生でままごとは観たことなくって、新菜さんの印象って(『わが星』より)2012年に観た五反田団の『びんぼう君』なんですよ。全然キャラ違いますよね……。
新菜 同じ人ですよ。
--次は、串尾さんから岡田智代さんを紹介してみてください。
串尾 智代さんは最年長を感じさせないフィジカルな強さで稽古場の熱を底上げしてくださってます。本当に素敵な方。ずっとダンスをされてて、いろんな人に教えたりもしてらして。稽古でも、おもしろいストレッチを紹介してくださいます。
--じゃあ、智代さんから藤谷理子さんを。
智代 理子ちゃんは京都の山とか川で遊んで育ったわんぱくなお嬢さんだったんですって。子どもの頃からバレエをやっていてアメリカのコンクールに出たりもしていて、身体が利く人。新菜ちゃんもだけど、京都弁を流暢に話すのがやわらかくて素敵だなあって思う。
新菜 あら、京都に生まれてよかったわー。
--では、理子さんから小山薫子さんを。
理子 大学4年生で、柴さんのゼミの教え子です。大学は違うけどあたしと同級生。薫子さんは高校も芸術系で、東京芸術劇場のシアターウエストに一度出演されたこともあるんよね。
--なるほど。最後に、薫子さんから新菜さんを。
薫子 新菜さんは「お母さん」のイメージが強いかな。5歳の息子さんがいらっしゃるんですけど、その様子を見ているといつもすごく優しい。あ、でも稽古場でのストレッチでいつも悲鳴あげてる。
新菜 あたし固いし筋力ないから……でも……すっごいがんばってるよ!!
--今作、東京芸術劇場のシアターイースト・シアターウエスト両方を使った上演ですよね。相互を行き来する公演と伺ってますが、稽古はどんなふうに行われてますか?
串尾 ふたつの劇場でいっぺんに上演するおもしろさは漠然と感じてるんですけど、稽古しながら、それがどうおもしろいのかをあれこれ考えてるところ。
理子 いっぱい制約があるから、その前提でどう戦ってくか。
新菜 ふたつの劇場で10人の俳優でやることのいちばんのおもしろさを探求してるけど、様々な制約を乗り越えることに、今は溺れかかってますね……。
智代 同じ作品を同時にするわけじゃないけど、全然違う話ではない。その狙いって何だろうってモヤモヤ感があったの。でも柴さんが「俳優が壁の向こうに行ってしまった時に壁の向こうで何が起きているか、俳優にもお客さんにも想像してもらいたい」って言ってて。決してそこは直に掴めないよね。みんなはどう?
串尾 僕ら的には、稽古で制約を解決していくことが進歩とか快感だけど、お客さんは劇場を移動できない。一回しか観ない人もいるだろうし、そのおもしろさの種類がごちゃごちゃになるとまずいから気をつけなきゃとは思いますね。
--新菜さん、薫子さん以外は柴作品初参加ですよね。皆さんは、柴さんの作品にどういう印象を持ってました?
串尾 初めて映像で2009年の『わが星』を観た時は、すごくびっくりしました。今まで観たことないものだったし、どうやってつくってるんだろうって。
智代 音楽にあわせて身体を動かすのは、おもしろそうだなって。
理子 あたしは2015年の『わが星』再々演を観たんですけど、多幸感というかハッピーな感じを受けました。4月から柴さんのワークショップ稽古に通って、あ、これが『わが星』つくってる人たちの稽古場なんやと思って……。幸せ度数が高い。ふわぁ〜♪ みたいな。
--そこのあたり、劇団員の新菜さんから観ると、柴さんの創作手法はどういう変遷を辿ってる?
新菜 いや、すごい変わったんですよ! 昔の柴くんは誰かとごはんなんか食べなかったよ。いつも見えないところに行ってひとりで食べてたし、稽古終わったらすぐ帰る……のは今もか。だから今は、うわー、柴くんが他人とお弁当食べてるわーって思う。
智代 え、毎日一緒に仲良く食べてるよね?
新菜 台本を自分で全部考えないで、俳優のフリートークを入れるつくり方をするようになったのも変化かな……。それは小豆島で町の人たちに取材をしながら作品をつくった時に構築したんじゃないかしら。
--今回、薫子さんと鈴木正也さんが新キャストで途中追加になったのも、軽やかな判断でしたよね。
薫子 ある時柴さんが「これ、ふたつの劇場にひとりずつ出たら男性キャスト足りなくないですか?」って言い出して。私は、演出助手から繰り上がって出演することになって、もうひとりの正也くんは多摩美の柴ゼミ生です。
新菜 柴くんは学生たちのことが大好きだからねえ……。そういう軽やかさは確かに昔にはなかったな。
--柴作品名物でもある「音合わせ」での作品づくりですけれど、音楽にあわせて演技をするって、どんな気持ちですか?
新菜 音楽のクセは、実は聴けば聴くほどやりやすいの。ただ、そこからズラしていくことも大事で、はめるところとズラすところはコントロールしてる。全部はめていくとダサくなるから。音楽的なジャストポイントはね、音を聞いてる時の柴くんをチラ見してると動きでわかる。たぶん無意識なんだけど、コンダクターみたいに身体を揺らしてる時があって、それを「ふんふん」ってこっそり見てます。
智代 さすが長いお付き合いだわ……。私は、ダンスを踊る時に「無音」がすごく必要なんですよ。この作品では、音楽が切れ目なく次のシーンにつながっていくでしょう。そこで私は、無音の時間がほしいなって思っちゃうの。でもそういう自分の生理的なものに頼りすぎちゃうと危険だなとは思ってる。
理子 あたしはお芝居するのと音楽聴くのとそこにはめて演技するので、まだ余裕がまったくなくて。台本も「お、ここ削んねや」みたいな感じでいっぱいいっぱい。
薫子 私、今年の春に柴さんと『大工』(2017)をつくって、それも音合わせの作品だったので、何となく作業の流れはわかるかな。もちろん難しさに対する悩みはあるけど、知らない街歩く時って不安とワクワクの両方があるでしょ。その感じが柴さんの作品にはある。だから楽しめちゃう。
智代 不安とワクワクなんてうまいこと言うね!
--今回の作品は「距離」が大きなテーマですよね。俳優として普段「距離」についてどう考えているか、ちょっと教えていただけないですか。
新菜 あたしは「距離」について考えないようにしてた時間が長いの。旅公演でどこに行っても「同じことしかしない」スタンスで20歳から35歳までの15年間くらい、やってた。それは、どこにでも同じものを届けることが正しいって考えてたから。公演が終わったあと「名残を惜しむのはダサい!」とも思ってたから「ハイ次! 台本は捨てる!!」みたいな感じで生きてたんだけど、最近はそうでもないんじゃないかなって気がしてて。
--え、台本捨ててた?!
新菜 捨ててたねえ。カッコイイと思ってただけやねんけど、正直子どもが生まれてから変わりました。子どもって、公演が終わったあとにすごく名残を惜しむのね。『わが星』が終わってもずっと『わが星』の話してるし、小豆島から帰ってきてもずっと小豆島の話してるし、ままごとが歌をつくったらずっと歌ってるから、それが正しい姿勢なのかなって。暴力的に切り離すんじゃなくて、寂しいとか、せいせいした、っていう気持ちを引きずりながら生きていこうって今は思ってる。
智代 私はダンスを子どもの頃からやっていたんだけど、中学の頃に両親が離婚して、母親の実家の岡山に移ったのね。でも岡山ではずっと「横浜から来た転校生」で、大学で上京したら「岡山から来た人」って言われて「私の住む世界はここではない」っていう気持ちがいつもあった。今は、自分のいる場所が自分の場所だと確信してるけど、当時は自分の根が張ってる場所がどこなのかわからなかった。
そんなわけで、岡山で何とかダンスを続けながら大学で東京に戻ったんだけど、ダンスを取り巻くいろんな環境が息苦しくなっちゃって、卒業後には国際線のフライトアテンダントになったの。結婚して子どもが生まれてからは「10年間は外に目を向けないでおこう」って決めた。自分の欲望に引きずられながら子育てするの嫌だったから。だから、距離イコール時間みたいなところもある。
理子 あたしは、今まさしく新菜さんの言う「15年」の中にいる気がして……。バレエは真剣にやってたけど、ポンと乗り換えて演劇に来たからバレエなんかもうしたくないって思ってるし、出た芝居も引きずらんようにしてる。「前向こ!」とかじゃなくて、自然に……。あたし冷たいヤツなのかな? 今でも覚えてるのは、初めて海外にバレエで12歳の時行くことになった時に、母も父も弟も学校休んで空港来てくれたのに見向きもしんとファーッと行っちゃったらしくて……京都人やからかも?
新菜 え、京都のせい?!
理子 京都人ってぬくぬくしてません? 危機感がなくて、妙な自信があるんですよ。みんな嘘やって言うと思うけど本気で信じてる! 京都には結界が張られてる!
新菜 確かに圧倒的な自信がある。文化と伝統と風水があるからね。
智代 「理子さんは意地悪言うの似合いますよね」って柴さんに言われてたよね(笑)。
理子 最悪だなあ……。でも京都人同士やったら「意地悪」じゃなくて「いけず」やから! 京都じゃない人に「意地悪」って受けとられるのがさみしいです……!
新菜 京都人は、はっきりNOって言いたくなくて、相手を否定しないように全力でがんばった結果、いけずになるのよ……。
理子 あたし、上京して大学に入ってから初めて地震を体験したんですよ。今まで、自分だけは大丈夫っていう自信が何となくあったから、みんなこの恐怖を日々感じてたの知らんかったって。新潟県中越地震(2004年)と東日本大震災(2011年)くらいがあたしの記憶にある大災害なんですけど「大丈夫やった?」って訊かれても「いや、揺れてへんし」っていう感じで生きてたから……今クリエーションが突き刺さってきますね。
新菜 阪神・淡路大震災のあった1995年は理子ちゃん、生まれてないもんね。
理子 まだお腹の中にいました。
--そうなんだ?! 串尾さんは東日本大震災のこと覚えてる?
串尾 僕は正に2011年、入学式がなくなって授業開始も遅れた年に大学に入った学年です。3月はまだ広島にいましたね。でも「東の方、結構大きい地震らしいよ」っていうくらいの認識。
でも実家でシャンプーしてた時に「行かねば……!」って、謎の使命感が湧いて、ボランティアで被災地に行ったんですよ。とりあえず「見てみないといけない」って思ったのかもしれない。土砂を片付けて家財を探すボランティアでした。変な皿とか、ようわからんものがいろいろ出てきて、明らかに土砂まみれなんで「絶対こんなん捨てるわ」って僕が思っても「捨てますか?」って訊くと家主が悩んで涙目になってたり……。当時の僕は「そんな悩むことですか?」ってすごくドライになっちゃって、その距離感を、当時はいちばん感じましたね。
薫子 私は去年、大学同期メンバーと、宮城県の石巻で野田秀樹さんの『赤鬼』を上演したんです。海を舞台にした物語だから、ダイレクトに被災地の方々の経験をフラッシュバックさせるものだった。その距離に自分が追いつけないまま台詞を喋ることになると思いつつ、石巻の街を歩いて自分が感じたことも浮かび上がったらいいなと思って演じました。でも、戻ってきて東京でも上演した時の方が説得力を持って東京のお客さんに伝えられた。演劇って距離を縮めに行くこともできるし、遠さも感じさせることもできる。そういう距離を動かす作業なのかな。
智代 私、フライトアテンダントだった頃に、チェルノブイリ原発事故直後のソ連に何度も飛んでたの。今考えれば、チェルノブイリとモスクワより、福島と東京の方が近いんだけど、娘を妊娠した時に産婦人科の先生に、「何回もモスクワ行ってたけど大丈夫でしょうか」って訊いたのね。その頃はお医者さんだってわからないことだらけだよね。そのことが、福島の事故の時にすごく思い出された。
--チェルノブイリの事故は1986年ですよね。新菜さん、智代さん、私以外は生まれてもいない……。串尾さんの出身地の広島は、世界最初の被爆地だけれど、自分たちが「被害者」だっていう感覚はあります?
串尾 広島は、小学校一年生から授業でガンガン平和教育を受けるんです。他の県の人たちに比べたら「悲劇」について触れる時間は多いけど、正直に言うと、僕は戦争を経験してないですよね……。だから、確かに自分たちの土地で起こった惨劇だけど、本当に経験した人とか、その子どもたちに比べたら僕らは世代的な距離がある。
理子 タイトルにある「悲しくないのは遠いから」っていう感覚はみんな持ってると思う。たとえばね、阪神・淡路大震災の時は東の人はそうやったやろうし、東日本の時は西の人はそうだったでしょ。テーマが普遍的やから誰が観てもこういう感覚にはなるやろなって。
--理子さんはフライヤーのメインビジュアルで一足先にTRAN泉の衣装を着ていましたけど、昨日みんなでフィッティングしたそうですね。どうでした?
理子 撮影で着た時もオシャレやなー! と思ったんですけど、みんなで揃って着るとどの国でもないような、異国感がありました。
串尾 僕は昨日が人生でいちばんオシャレな瞬間でしたよ。
智代 麻布十番にいそうな感じだった。
--それは、スタッフワークも楽しみです。そんな本作の見どころを紹介してください!
智代 舞台美術がダイナミックでおもしろい!
串尾 ふたつの劇場の様子がまったく違うから、お客さんも距離感をいろいろ楽しめるんじゃないかな。俳優の組合せもかなり違いますよね。
新菜 ピッピちゃん(森岡光)と理子ちゃんが可愛いよね。
理子 ピッピさんは涙もろいけど、あたしの役は全然泣かへん(笑)。シアターイーストとシアターウエストどっち観るかはねえ……「えいや!」で決めるしかないですよね? あたし友達にも「両方見なあかんことないで。両方でも楽しいけど、片方だけでもいいから、えいや! って決めて」って言ってます。
薫子 勘だよね。
智代 あなたの勘を信じて、キャストたちは全力でシアターイースト・ウエストを行き来してお待ちしております。
串尾 巡り合わせで!
新菜 目当ての俳優がいる人はぶっちゃけ制作部にお問い合わせください。
理子 それ、自分がどっちって言われるか気になる……。
--参考になったかな? 本日はありがとうございました!!
キャスト座談会はpart2に続きます。更新をお楽しみに。
フェスティバル/トーキョー17主催プログラム
『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』
作・演出 柴 幸男
同じ時間、二つの場所で紡がれる物語。隣にいても遠い「距離」から見わたす未来
2017年10月7日[土]- 15日[日]
東京芸術劇場 シアターイースト/シアターウエスト
詳細、チケットの購入はF/T公式ホームページへ